サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ教会・2


隣接する修道院には、ピエトロ・カヴァッリーニによる「最後の審判」のフレスコ画があります。13世紀末の作品は、その後の教会の改修工事の時に一旦壁に塗りこめられてしまったため、1901年に再発見されるまで人々から実に600年もの間忘れ去られていました。著しい損傷を受けていたのですが、ようやく1980年に修復されました。

カヴァッリーニはサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会のモザイク画「マリアの生涯」などの作者として有名ですが、彼の詳細な経歴ははっきりしていません。
しかし、1200年代後半ローマに生まれ、ナポリ王室など各地の宮廷でも仕事をしていたようです。冬でも外出時には帽子をかぶらず、100歳近くまで生きた、とも言われています。

13世紀後半から14世紀の初頭にかけてジォットと懇意になり、二人で西洋絵画における革新的な役割を果たしました。すなわち「この世のものではない」唯一絶対の神や聖母マリア、諸聖人たちの「荘厳さ」を描くことが目的だったビザンチン美術とは違って、キリストや聖母、諸聖人においても「生身の人間らしさ」を写し出す、というスタイルは西洋絵画史上カッヴァリーニとジォットが創めたものです。

二人のスタイルはあまりにも似ているため、しばしばどちらの作品か特定することが難しいほどですが、この「最後の審判」は明らかにカヴァッリーニ及びその弟子たちの作だということは断言できるそうです。

中央部では赤いマンドルラ(神聖な人物を取り巻く身光)に包まれたキリストが玉座に座って最後の審判を下しています。マンドルラの中の赤、背景の青という色彩の美しさもビザンチン美術とは一線を画しています。

   

キリストの左右を楽器を奏でる天使たちが取り巻いています。cinabro(辰砂(しんしゃ))、minio(鉛丹)、金などの貴重な天然の鉱物を原料にした絵の具を使い、薄くヴェールをかけるかのような繊細な筆遣いが特徴的です。
   

キリストを取り巻く天使の左側には聖母マリアと聖パウロほかの6人の使徒たちが描かれています。
このフレスコ画の中でも聖母マリアとキリストはカヴァッリーニ本人によるものと考えられます。特に聖母マリアのマントの下には明らかに重みのある人間の体があるということがとても自然に描かれています。
 

キリストを取り巻く天使の右側には、洗礼者ヨハネと聖ペテロほか6人の使徒が描かれています。使徒たちは輪郭が暗く、陰のぼかし方や首の長さなどの技術が劣っているので、おそらく弟子たちの手によるものと考えられるそうです。

しかし、全体に曲線の多用、生き生きとした色遣いやはっきりとした陰影などにより、そこに生きている人間を表現し、そしてなによりも人物の表情が一人一人違うということは「人間性の追求」というルネッサンスのさきがけとなるものでした。

 

管理人が2002年3月に現地で購入した教会のパンフレットには「傷みが激しいため週のうちの3日ほど、しかも1日1時間ほどしか公開していない」と書いてあり、実際に見学することはできませんでした。
しかし、2003年10月に訪問されたドラゴンさんによると、木曜日の午前中だけ見学できるようになっていたとのことです。

そのときにドラゴンさんが撮影された写真を提供してくださいました。このページの4枚の写真は、すべてドラゴンさんの撮影によるものです。なかなか目にするチャンスのない貴重なフレスコ画の写真をどうもありがとうございました。

   
   

「サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ教会・1」

   

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