サンタ・マリア・イン・コスメディン教会


この教会の名前を聞いただけでピンとくる方はあまりたくさんはいらっしゃらないかもしれません。でもボッカ・デッラ・ヴェリタ広場という住所を聞けばおわかりになることでしょう。そうです、「真実の口」であまりにも有名なあの教会です。

この広場には、キリスト教以前の古代ローマのヴェスタ神殿とフォルトゥーナの神殿が今も残っています。そして7層の美しい鐘楼を持つロマネスクのコスメディン教会とネプチューンが支えるバロックの噴水の前を自動車の洪水が流れていく、という、まさに長い歴史が折り重なっているローマという町を象徴するような場所です。

教会の創建は6世紀頃で、8世紀の教皇ハドリアヌス1世が拡張しました。
当時、東ローマ帝国の聖画像破壊主義(イコノクラスモ)を逃れてきたギリシャ人たちが、この地区で「スコラ・グレカ(ギリシャ人組合)」を形成していました。そのギリシャ人たちに教皇はこの教会を与え、ギリシャ語で「すばらしい装飾」を意味する「コスメディン」という愛称で呼ばれるようになりました。
この伝統はずっと引き継がれており、現在でもギリシャの国民教会としてギリシャ正教の典礼に則ったミサを毎週日曜日に行っているそうです。

教会には、12世紀に正面入り口とローマでもっとも美しいと言われている2連窓・3連窓のある7層の鐘楼がつけ加えられました。その後、正面ファサードも一時バロック様式に改築されたりもしましたが、1899年にもとの落ち着いたロマネスク様式に復元されました。ベルニーニに目を付けられなくてよかった〜。

   


内部はこじんまりとした三廊のバジリカ形式で、窓も壁の高いところにあるため、非常に暗くひんやりとしてます。
おまけに人っ子一人いなかったのでとても神秘的な雰囲気でした。

モザイクの床(写真左上)、司教座(右上)、主祭壇の天蓋(右)など、すべてコスマーティ様式で装飾されています。
天井にはもともとは旧サン・ピエトロ大聖堂にあった6世紀のモザイク画などもあったのですが、とにかく暗くてあまりよく見えませんでした。

   

いかにもビザンチン風の聖母子のイコンには真新しい花が生けられており、現在も人々の信仰を集めていることがうかがえます。

   

 

ローマの古い教会に行ったら、列柱に注目してみてください。太さも材質も装飾も全然違う柱が並んでいることがよくあります。
これは、もはやうち捨てられていたあっちこっちの古代ローマの建築物から石材を頂戴してきて教会を建てた証拠です。

こんなところにもローマの歴史の重層性が感じられます。

   

 

いわずとしれた「真実の口」。もともとは下水溝のフタだったとか、嘘つきの人は手を噛まれる、などということは今さら書かなくてもいいでしょう。

口に手を入れるのはあまりに陳腐なので、今回は鼻に入れてみました。ちなみに両目にも入ります。

 
この日はイタリア人の小団体だけでしたが、観光シーズンともなると、朝から教会の前に観光バスが何台も横付けになり、特に日本人が次から次へと流れ作業のように「真実の口」に手を入れては写真を撮っているそうです。
かく言う管理人も恥ずかしながらその昔、典型的な日本人として記念撮影をしたという過去があります。しかし「こんなことして何が楽しいのかなぁ」というのがその時の率直な感想でした。

もし「こんなことしなくてもいいや」とお思いのみなさんがツアーの市内観光などでこの教会を訪れて、半強制的に写真を撮るように勧められたら、なが〜く延びている列を抜け出して、ちょっと教会の中をのぞいてみてください。外の喧噪から離れて静寂に満ちた神秘的な空間が広がっていることに気づかれることでしょう。

 

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